スポット放射温度計vs赤外線サーモグラフィ

赤外線サーモグラフィは、世界中の企業で使用されている一般的な⾮接触式温度測機器です。 スポット放射温度計も産業⽤の⾮接触式温度測機器として広く使⽤されています。 この2つは同じ原理を利用しています。⾚外線エネルギーを検出し、それを温度に変換します。 ただし、サーモグラフィにはスポット放射温度計と比べていくつかのメリットがあります。
  • スポット放射温度計は単に1点の温度数値を示すだけですが、赤外線サーモグラフィは温度分布として映し出します。
  • スポット放射温度計はスポット1点の温度を表示しますが、赤外線サーモグラフィは熱画像全体の各ピクセルの温度を表示します。
  • また⾼度な光学技術のおかげで、赤外線サーモグラフィはより遠距離から温度を測ることができます。 これにより、⼤きな領域をすばやく検査することができるのです。

スポット放射温度計は、温度銃または⾚外線放射温度計としても知られています。 スポット放射温度計は、赤外線カメラと同じ物理的原理に従って作動するため、1ピクセルだけを計測するサーモグラフィと考えることもできます。 このようなツールは数多くの業務で役立ちますが、たった一か所の温度しか計測できないため、計測者は重要度の高い情報を見逃しやすくなります。 ある重要部品の温度が故障温度に近づいており、修理が必要な状態となっていたとしても、気づかないといったことも起こりえます。

スポット放射温度計は1点の温度を測定するものです。

一方、赤外線サーモグラフィFLIR E40scは19,200スポットの温度を測定します。

何千ものスポット放射温度計を同時に使⽤

赤外線サーモグラフィは、スポット放射温度計のように⾮接触での温度測定が可能です。 しかしスポット放射温度計とは異なって赤外線サーモグラフィは、1つではなく熱画像のピクセルごとに合計で数千の温度指示値を同時に⽣成します。 したがって、1台の赤外線サーモグラフィを使⽤することは、数千個のスポット放射温度計を使用することに相当します。 赤外線サーモグラフィFLIR E40scの画像解像度は160 x 120ピクセルで、一度に19,200点の温度を計測します。 産業⽤研究開発/科学用途向けカメラのトップモデルの1つであるFLIR T1030scは、1024 x 768ピクセルの画像解像度を備えており⼀度に786,432点の温度を読み取ることができます。

 


スポット放射温度計が「⾒て」いるもの


赤外線サーモグラフィが「⾒て」いるもの


スポット放射温度計が「⾒て」いるもの


赤外線サーモグラフィが「⾒て」いるもの

時間を節約して熱を「⾒る」

赤外線サーモグラフィは何千もの温度測定値が得られるだけでなく、それらの測定値を熱画像に変換します。 このように画像に変換することで検査対象装置の全体像が把握できるようになり、スポット放射温度計では⾒逃しがちな⼩さなホットスポットも直ちに発見することができます。 赤外線サーモグラフィの利用は時間の節約にもつながります。 数多くの部品がある広いエリアをスポット放射温度計一台でスキャンする場合、部品1個1個をそれぞれ計測しなければならないので、膨大な時間がかかります。 赤外線サーモグラフィは、プリント基板の熱放射のチェック、品質チェック、⾃動⾞部⾨での熱の影響の検査、試験所で故障解析などに使うことができます。


スポット放射温度計で測定対象の温度を正確に測定するには、ターゲットが測定スポット全体を覆う必要があります。 このため、正確な温度計測を行なえる距離は限定されます。

スポット放射温度計と⽐較して赤外線サーモグラフィが優れているもう1つの点は、より離れたところから正確に温度を計測できることです。 スポット放射温度計がターゲットを測定できる距離は、通常、「距離対スポットサイズ⽐」(D:S)または「スポットサイズ⽐」(SSR)と表現されます。 しかし、その値の根拠、またそれが意味するものは何なのでしょうか? スポット放射温度計の「スポットサイズ」は、そのデバイスで正確に測定できる最⼩⾯積を表しています。 つまり、ターゲットとも呼ばれる温度の測定対象物はスポットサイズの全体を覆わなければなりません。 ターゲットによって放出された⾚外線は、スポット放射温度計の光学部品を通過し検出器に投影されます。 対象物がスポットサイズより⼩さい場合、検出器には対象物の周囲から来る放射線の一部も投影されます。 その結果、デバイスが測っているのは対象物の温度というより対象物およびその周囲にある物の混合体の温度、ということになります。

測定の対象物からスポット放射温度計までの距離が遠くなればなるほど、光学部品の特性によりスポットのサイズは⼤きくなります。 このため、正確に温度を測定するためには、ターゲットが⼩さくなればなるほど、スポット放射温度計を接近させる必要があります。 スポットサイズから目を離さず、ターゲットがスポットサイズの全体を覆うまで近づくことが重要です。万全を期するためには、そこから、さらに一歩近づいて計測するとよいでしょう。 スポット放射温度計の場合、そのターゲットまでの距離に対するスポットサイズは、スポットサイズ⽐によって決まります。

例えば、SSRが1:30のスポット放射温度計は、直径1cmのスポットの温度を30cmの距離から正確に測定できることができます。 サイズが4cmのスポットの温度は、120cm(1.2m)の距離から測定することができます。 ほとんどのスポット放射温度計のSSRは1:5から1:50となっています。 したがって、直径1cmのターゲットを測定できる距離は、5cmから50cmとなります。 赤外線サーモグラフィは、放射⾚外線が検出器マトリックス上に投影され画像内の各ピクセルが温度測定値に対応します。この点は、スポット放射温度計と⾮常に似ています。

赤外線サーモグラフィの⽣産者は通常、製品の空間解像度を表す際、SSR値ではなく瞬時視野角(IFOV)を使用します。 IFOVは、カメラの検出器アレイの1エレメントの視野と定義されます。

理論上、赤外線サーモグラフィのスポットサイズ⽐は、IFOVによって決定されます。 ターゲットによって放出された⾚外線は光学部品を通過して検出器に投影されるので、投影された⾚外線放射は、少なくとも1つの検出エレメントを完全に覆わなければなりません。 つまり理論上は、正確な温度測定を保証するには、赤外線放射が熱画像の1ピクセルを覆えば十分ということになります。 IFOVは通常、ミリラジアン(ラジアンの1000分の1)で表されます。

赤外線サーモグラフィを使えば熱を「⾒る」ことができます。

ラジアンは、円弧の⻑さとその半径の⽐を表します。 1ラジアンの数学的な定義は、円弧の⻑さが円の半径に等しいときに形成される⾓度となります。 円周は半径の2π倍に等しいので、1ラジアンは円の1 /(2π)、角度では約57.296度、また1ミリラジアン(mrad)は0.057度となります。 赤外線サーモグラフィを使ってターゲットの温度を測定する状況では、ターゲットまでの距離は円の半径に等しくターゲットの表面はほぼ平面であると想定します。 検出器の1エレメントの視野⾓は⼩さいので、その角度の正接はそのラジアンの値にほぼ等しいと仮定することができます。 したがって、スポットサイズはIFOV(mrad)を1000で割り、ターゲットまでの距離を掛けて計算します。

 

ここで、IFOVの単位はmrad(ミリラジアン)となります

理想の光学部品と実際の光学部品

この式を使⽤すると、IFOVが1.4mradのカメラの理論SSRは1:714なので、理論上は直径7m以上の距離で1cmの物体を測定できるはずです。 しかしこれまでに述べたように、この理論値は現実の状況には対応していません。というのも、現実の光学部品は完全には完璧ではないという事実を考慮していないからです。 検出器に⾚外線放射を投影するレンズは、光を分散させ、別の形の光学収差を作り出します。 目的とするターゲットが検出器の1エレメントに正確に投影されている、との確証を得ることはできません。 投影された⾚外線放射は、検出の隣接するピクセルから「あふれ出る」こともあります。 ⾔い換えれば、ターゲットを取り囲む表⾯の温度がターゲット温度の読み取りに影響を及ぼす可能性があるのです。

スポット放射温度計と同様に、ターゲットがスポットサイズを完全に覆うだけでなく、スポットサイズ周辺の安全域まで覆った方がより正確な測定になります。 この安全域は、測定視野角(MFOV)を意味します。 MFOVは、サーモグラフィの実際の測定スポットサイズ、言い換えれば正確な温度測定値が得られる測定可能な最⼩⾯積を表します。 これは通常、1ピクセルの視野角、IFOVの大木さで表されます。

マイクロボロメーター式赤外線サーモグラフィカメラの⼀般的なガイドラインは、光学収差を考慮に⼊れて、ターゲットはIFOVの少なくとも3倍の領域を覆うべきものとしています。 これは、熱画像を使った測定では、理想的な状況において1ピクセルで十分であったターゲットのカバー範囲を、周囲のピクセルまで拡大する必要があることを意味します。 このガイドラインを順守する場合、スポットサイズ⽐を決定する式は、現実の光学部品という要因を考慮に⼊れることでより適合性を高めることができます。 つまり、1xIFOVの代わりに3xIFOVのガイドラインを使⽤するのです。これにより、より現実的な次のような数式が得られます。

ここで、IFOVの単位はmrad(ミリラジアン)となります。

この式によれば、IFOVが1.4mradのカメラのSSRは1:238で、2.4m弱の距離で直径1cmの対象物を測定できることになります。 この理論値は安全域を考慮しているため、実際より厳格な値です。 したがって、現実のSSRはこれより大きいとしても、これら安全なサイドのSSR値を使⽤することで温度測定値の精度を確保できることになります。


理想的な状況では、投影されたターゲットは少なくとも1ピクセルをカバーする必要があります。 測定値の正確性を保証するには、より広い領域をカバーして光学部品に起因する投影の分散に対応するのが良いでしょう。


対象物が発する赤外線エネルギー(A)は、光学部品(B)によって赤外線検出器(C)に集束されます。 検出器は、画像処理のために情報をセンサー電子機器(D)に送ります。 電子機器は、検出器からのデータをビューファインダー内、標準ビデオモニタ、またはLCDスクリーン上で確認できる画像(E)に変換します。

スポット放射温度計のSSRは通常、1:5から1:50の範囲にあります。 普及価格モデルのほとんどはSSRが1:5から1:10ですが、より高度かつ高価なモデルではSSRが1:40または1:50に達する程になります。 しかし、スポットの⾼温計は光学的には赤外線サーモグラフィと同じ問題を抱えています。 スポット放射温度計の仕様を⽐較するときは、SSR値が理論値を指しているのか、光学部品の不完全性を考慮して補正された値なのかを確認する必要があります。

離れた距離からの温度検出

光学部品における現実対理想の要因を考慮しても、赤外線サーモグラフィとスポット放射温度計では測定距離の点で大きく異なります。 ほとんどのスポット放射温度計は、ターゲットのサイズを1cmと想定して、10から50cm以上遠くには離せません。 ほとんどの赤外線サーモグラフィは、数メートル離れた地点からこのサイズ(1cm)のターゲットの温度を正確に測定できます。 IFOV仕様が2.72mradの赤外線サーモグラフィFLIR E40でも、このサイズのスポット(1cm)の温度を120cm以上離れた場所から測定できます。 FLIRの最も先進的な産業向け検査モデルの1つである赤外線サーモグラフィFLIR T1030scでは、標準28度レンズを使⽤してこのサイズのターゲットの温度を7m以上の距離から測定します。 これらの値は、標準レンズの使⽤を前提として計算してあります。

高性能な赤外線サーモグラフィの多くはレンズを交換して使用できる特徴があります。 使用するレンズが異なるとIFOVが変化し、スポットサイズ⽐に影響が及びます。 例えば、赤外線サーモグラフィFLIR T1030scの場合、FLIRは標準の28度レンズだけでなく12度の望遠レンズも装備されています。 遠距離観察用に開発されたこのレンズでは、スポットサイズ⽐がかなり⼤きくなります。 12°望遠レンズ使用時における、赤外線サーモグラフィFLIR T1030scのIFOVは0.20ミリラジアンです。 このレンズを使⽤すると、同じ赤外線サーモグラフィで同じサイズのターゲットの温度をほぼ17mの距離から正確に測定できます。

近くに寄る必要があるかどうかの判断

赤外線サーモグラフィのSSR値はスポット放射温度計よりも明らかに優れていますが、SSR値が関係するのは温度を正確に測定できる距離を示すにすぎません。 実際の温度検出では、ホットスポットの検出に必ずしも正確な温度測定を必要としません。 ホットスポットは、ターゲットが熱画像内のたった1ピクセルしか覆っていなくても、熱画像での識別が可能なのです。 つまり、温度の指示値自体は完全ではないものの、ホットスポットの検出が起点となって測定者はもっと近くに寄りターゲットが占める熱画像のピクセル数を増加させることで温度の指示値が正しいことを確認することになるのです。

スポット放射温度計で、極端に小さい物体の温度測定をする要求が高まっています。 この機能は、電子機器回路の検査では、特に重要です。 デバイスの処理速度が上がるにつれ、より⼩型化が求められ、いかに熱を放散し、ホットスポットを見つけるかが重要な課題となっています。 スポット放射温度計は問題を効果的に検出し温度を測定できるツールですが、そのスポットサイズが大きいものは使用できません。 しかし、接写光学部品を備えた赤外線カメラは、ピクセルスポットサイズあたり5μm(マイクロメートル)未満まで焦点を絞ることができます。 これにより、研究者や技術者にとって極めて微小な温度の測定が可能になります。

憶測から「見える」化へ

スポット放射温度計は、数値を示すだけです。 その数字は正確性を欠くものかもしれません。それが推測を生むのです。 赤外線サーモグラフィを使えば熱を「⾒る」ことができ、温度測定だけでなく熱分布の瞬間的な画像も提供してくれます。 このビジュアルの情報と正確な温度測定の組み合わせにより、迅速かつ正確に障害を⾒つけることができるのです。 推測をやめ、フリアーシステムズの赤外線サーモグラフィにアップグレードアップして、より早くかつ簡単に問題を発見しましょう。


クローズアップレンズと顕微鏡レンズが提供する画像のきめ細かな詳細により、⼩さなスポットを測定することが可能になります。 これはスポット放射温度計では⾮常に困難なことです。 上の画像は4倍のクローズアップレンズで撮影、下の画像は15ミクロンレンズで撮影したものです。

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