加熱炉の管内部を正確に測定するための最適なフィルタリングの使用

赤外線カメラは、稼働中の石油精製炉の管内部の温度測定に最適な非接触式の点検ツールですが、炎越しの温度の測定には困難が伴います。幸いにも、新しいフィルタリング技術によって、こうした測定の精度を向上させられます。

稼働中の石油精製炉の管内部の点検は、安全性、効率性、寿命を最大限確保するために不可欠ですが、稼働中の炉内の高温のガスの中での赤外線(IR)画像生成や温度測定には困難が伴います。解決策は、稼働中の炉内で正確な測定が可能な特殊なフィルターを装着したガス検知用赤外線カメラです。

石油化学業界では、原油を処理して他の生産物を生成するには、炉で400°C以上の温度まで原油を加熱する必要があります。一般的には、炉内に管を通じて原油を送り込むことによってこの処理が行われます。炉ではバーナーにより管が加熱されることで管の中の石油も加熱されるため、管の表面温度を適切に制御することが重要になります。管の一部分が50°C高くなるだけで、20~25年使用できるように設計された管が5年で故障してしまう場合があります。その一方で、炉の温度が低すぎるとシステムの効率性が著しく低下するため、処理能力が低くなります。

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炉内の確認

このため、高温のガスを見通して管の温度を測定することが重要です。測定する方法のひとつは、管に取り付けられた温度センサーである熱電対を使用することです。熱電対は有用な情報を提供しますが、測定できるのは取り付けられている箇所の温度のみです。熱電対は付近の温度上昇を検知できないので、周囲の温度が一定であると信じるしかありません(図1参照)。

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図1.管の熱電対は、この画像で明るい色で表示されている隣接する高温エリアを検知できず、局地的な箇所の温度のみ測定します。

炉を撮影するFLIR GF309のようなカメラは、広い範囲で管を確認して画像生成エリア内の熱を測定できます。管の部分ごとに温度の変化がある場合は、カメラがそれを検知できます。炉を加熱するバーナーは、ほとんどの赤外線カメラでは明瞭に見通せない煙やガスを生成します。しかし、スペクトルフィルターを搭載した特殊な赤外線カメラは見通すことが可能なため、煙やガスの背後の管の温度変化を測定できます。

内側と外側

こうした温度の変化が生じる原因は何でしょうか。2つの過程が、バーナーの炎の熱が管の中の石油へスムーズに移動するのを妨げる可能性があります。ひとつは、過剰な熱によって管の外表面に酸化層が形成される、スケールと呼ばれるものです。こうした酸化層は、放射率や厚みを変化させて、熱を吸収し、伝導率を低下させることで、管への熱伝導が制限されます。こうしたエリアは赤外線画像では高温で表示されますが、実際のところ、管への熱の流れがブロックされるため低温のまま処理されます(図2参照)。

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図2.管の外側のスケールは、赤外線でも可視光でもまだら模様で表示されます。赤外線画像で高温表示される輪郭のはっきりとしたエリアは、実際には過熱状態ではありません。

スケールは見かけ上の過熱を発生させますが、実際に過熱の原因となるのは、コーキングという別の問題です。コーキングは温度の局部的な上昇によって引き起こされ、原油を炭素と水素に分解してしまいます。水素は石油と一緒に流れていきますが、炭素は管の内表面に局部的に付着して堆積する場合があります。通常は石油と一緒に管の熱が運ばれていきますが、この堆積物が石油の流れを妨げるため、管の内部の堆積部分が高温になります。

たとえば、通常は400°Cの、管のある部分を調査するとします。バーナーに面している管のどこかに450°Cに温度が上昇している小さなエリアがあるかもしれません。熱に最も直接さらされるのは通常はバーナーに面している側面なので、スケールとコーキングはこの部分に生じやすくなります。赤外線画像では、高温エリアは周囲の管と異なる色で明確に表示されます。ただし、こうした過熱がスケールなのかコーキングなのか、どのように見分けるのでしょうか。

違いの見分け方

スケールとコーキングは別々の2つの問題です。前者は見かけ上の過熱で後者は実際の過熱の原因となるため、これらを区別できることが重要です。スケールは通常、くっきりとした温度勾配で示され、多くの場合、可視光でも赤外線画像でも確認可能なまだら模様で表示されます。可視パターンが赤外線パターンに一致していれば、その問題はおそらくスケールです。コーキングは通常、赤外線画像では「ゴーストのような光」と称されることも多い滑らかな温度勾配で表示され、管の表面の可視の外観とは一致しません(図3参照)。違いを見分けて温度の変化を測定するには、高品質の画像が必要です。こうした画像を取得するために、煙やガスの熱を画像から排除するフィルターを赤外線カメラで使用すると、原則的には炉から管を見通すことができます。適切なフィルタリングがなければ、画像は不明瞭になってしまいます。不明瞭な画像は温度測定の精度を大幅に低下させるので、過熱エリアの原因がコーキングなのかスケールなのか見分けることが困難になります。

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図3.内部にコーキングが生じている管のエリアは、赤外線画像では輪郭のぼやけた「ゴーストのような光」で表示され、過熱の恐れのある実際の高温の管のエリアを示します。

赤外線カメラには、3.9μmの波長の放射のみを通すフィルターを取り付けたInSb検知器を搭載できます。炉内の煙やガスはこの波長でほとんどあるいは全く放射せず、機能上見えなくなることで、検知器により集められた光子の大部分が煙の背後にある別の物体からのものになります。画像と精度に悪影響を及ぼすようなフィルターのノイズと自己発熱を減らすために、検知器およびこのフィルターはどちらも70ケルビン以下に冷却されたカメラの部品として収められています。

また、赤外線カメラは、冷却エリアの外側に差し込み式の減光フィルターも搭載可能で、高温の場所で検知器の過飽和を防止するために広範囲の波長で一定の割合の放射を排除します。しかしながら、こうした構成でも、検知器にたどり着く過剰な放射である、「迷光」と呼ばれる好ましくない現象に関する問題がまだ存在します。

惑わす光

迷光は、測定対象が周囲エリアよりも高温である場合など、多くのタイプの温度測定ではあまり問題にはなりません。しかし、炉内では通常は周囲エリアが管よりもはるかに高温のため、問題を引き起こす恐れがあります。迷光は、赤外光子が様々な表面に反射して、不要な経路をたどることで発生します。迷光は、カメラの視野内から入射したり、バーナーといった視野外の高温の物体から入射したりする可能性があります。迷光は、検知器にたどり着くまでカメラ内で散乱することで、画像の品質を低下させて温度測定の精度に影響を与える不明瞭な効果を生み出します(図4参照)。

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図4.減光フィルターを搭載して撮影された高温の黒体(上の図)は、迷光のため輪郭がぼやけて表示されています。アパーチャーを通して同じ物体(下の図)を確認すると、輪郭がはっきりします。注意:上の不明瞭な図は、違いが視覚的にわかりやすくなるように誇張されています。

新たな手法

迷光の問題を解決するために、減光フィルターの代わりにアパーチャーを使用できます。アパーチャーは、小さな穴のあいたアルミニウム板で、減光フィルターと同様に大部分の放射をブロックします。この板の両側は、赤外線放射を吸収する赤外線ブラックでコーティングされています。アパーチャーの外側に当たる迷光は吸収されるため、カメラに入り込むことはありません。アパーチャーのもうひとつの利点は、カメラの被写界深度が向上することで、より多くの管に同時に焦点を合わせられるようになります。これにより、一度により広い範囲の管を点検可能になります(図5参照)。

NDF Filter.jpg

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図5.これらの画像は、アパーチャー(下)と減光フィルター(上)を使用してそれぞれ同じビューポートから撮影されました。各画像の右側のビューポートの側壁は、アパーチャーを使用した方がはっきりと焦点が合います(写真提供:Mikael Cronholm)

もちろん、炉からの数百°Cという高温は、赤外線ブラックのコーティングだけでなくカメラ本体も溶かしてしまうのに十分な温度です。このため、前面の熱シールドと、不要な波長を抑制する前面の保護窓をさらに取り付けて必ずカメラを使用しなければなりません。

測定の制限

最近の試験では、炉の反対側に温度と放射率が既知の黒体放射体を置いて、炉の点検ポートからカメラを向けました。コーティングされたアパーチャーを使用して迷光を効率的に抑制することで、測定エラーが半減しました。また、他の要因も測定の精度に影響を与えます。バーナーの燃料となるクリーンな燃焼の天然ガスであれば最も有用な結果が得られます。なぜなら、炉内の変化や燃料の不純物によって煙の放射する波長が変化する可能性があり、エラーの原因となるからです。

また、本来は炉の側面ののぞき穴である点検ポートによって別の制限が課されます。熱を保つために炉の壁はおよそ50cmの厚さで、ポートは小さくなる傾向があります。ポートからカメラを真っ直ぐに向けると、正面しか確認できないため、画像を撮影可能なエリアが制限されます。そこで、レンズエクステンダーを追加すると、のぞき穴に適合するこの薄型の装置を回転させてより多くの管を確認できるため、問題を発見できる可能性が高まります。

有用なツール

赤外線カメラは、石油精製や石油化学処理に使用する炉内の管の温度測定の収集に重要なツールであり、熱電対よりも詳細な測定を行えます。炉内のガスを見通すことは困難ではありますが、管の温度が50°C上昇するだけで管の寿命が大幅に短くなるため、正確に測定を行うことが重要です。

適切なフィルター構成を選択することで、測定精度に影響を及ぼし、外側のスケールと内側のコーキングを見分けられるようになります。減光フィルターの使用は検知器の過飽和の問題を軽減しますが、検知器に入射して不明瞭で有用性の低い画像を生成してしまう迷光は排除できません。新しい技術はアパーチャーを代わりに使用することです。アパーチャーは、赤外線ブラックでコーティングされたアルミニウム板にあけられた小さな穴で、迷光が検知器にたどり着く前に吸収できます。

適切なフィルター構成を選択し、燃料ガスの純度やバーナーの効率性といった精度に影響を及ぼすその他の要因を考慮に入れることで、炉の点検担当者は、処理がどれくらい順調なのか評価して、追加費用が生じる前に問題を発見することができます。

ガス検知用赤外線カメラまたはその用途に関する詳細については、

www.flir.jp/instruments/optical-gas-imaging/をご覧ください。

 

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