モバイル赤外線スキャニング — 伝統的な橋の検査法に代わるハイテクで正確な代替手段

土木技師たちは大きな問題を抱えています。米国全土で数万の橋が50年の設計寿命を過ぎて使われているのです。 連邦道路管理局(FHWA)によると、米国全土の611,845に及ぶ橋の約4分の1は、構造的に欠陥があるかまたは古い機能のものとなっています。 これらの橋は大規模な保守、修理または交換が必要で、見積りでは今後12年間に毎年約205億ドルの費用が必要です。

コンクリート橋のデッキの構造的欠陥を調べるのに現在用いられている従来の方法は、検査員とドライバーの双方にとって時間がかかり、また不正確で危険をもたらすこともあります。 これらの方法は検査員の主観的評価に依存しています。 また調査には橋の閉鎖が必要で、通行停止または著しい交通渋滞を引き起こします。 しかし、モバイル赤外線カメラと分析ソフトウェアを組み合わせた新しいハイテク手法を採用すれば、より安全でより客観的なソリューションが手に入ります。

橋の剥離の特定

コンクリート橋損傷の主な2つの要因は、剥離と破砕です。 剥離には、コンクリート層間の剥離と表面コーティングと基層間の剥離があります。 埋め込まれた補強バー(鉄筋)は時間が経つと腐食し、コンクリートを水平に層状に分割するか(デラミネーション)、または損傷部分の上で破断された塊(破砕)に分割します。

 

コンクリートの剥離を見つけるには、通常、チェーンドラッグ音響検査と呼ばれる一種の非破壊検査(NDT)法が使われます。 検査官は橋のデッキ上で重いチェーンを引きずり、剥離部分で生じる独特の中空音に耳を傾けます。 その後、取得したデータにより橋デッキの剥離マップを作成できます。

このチェーンドラッグ法には短所があります。 この種の検査では調査中の車線を閉鎖しますが、通行用に開放した車線もあり、検査員はその車線に沿って作業することも多いのです。 また交通騒音により、剥離したコンクリートを横切るときのチェーンの音を判別することが難しくなります。 さらに、チェーンドラッグ法は検査員の知識および経験に依存する部分が大きいので主観的判断を許し、結果として不正確さにつながる可能性があります。 事実、剥離に関するFHWAの調査は、チェーンドラッグ法では正確で一貫した評価結果が得られないと結論付けています。

チェーンドラッグ音響検査に代わるハイテクの代替手段では、トラックに取り付けた赤外線カメラを使ってコンクリートデッキ表面の剥離領域を特定します。 このNDT検査技術はNEXCO-West USAが開発したもので、フリアーシステムズの冷却型赤外線カメラで取得したデータをNEXCO-West独自開発のソフトウェアで作成したマップに組み込む機能があります。 現在、同社の技術者たちはセントラルフロリダ大学と協力して、米国全土の州高速道路機関が使用できる客観的かつ効率的な橋の検査手法を開発しています。


橋デッキのIR測量による視覚画像、未処理、処理済み剥離画像
出典: 「コンクリート橋のデッキスキャニングに使用する赤外線カメラの比較:Vol.2 Haymarket Bridgeにおけるフィールドテスト」2014年12月, NEXCO-West USA, Inc.

安全で効率的かつ移動性に優れた方法

「橋の剥離試験にNEXCO-Westが採用したアプローチは、車の屋根に赤外線カメラを据え付けた移動性に優れた方法です」と松本正人社長兼CEOは述べています。 「私たちの方法は車線閉鎖や速度制限を必要としないため、検査員の安全を確保しながら交通流を維持できます。」

スキャンは通常日中または日没後数時間以内に行われ、その時間帯には大きな温度変化が観察されます。 例えば、午後に加熱されたコンクリートは日没後に冷たくなり、測定可能な温度変化を生み出します。 デッキの大部分は均等に加熱または冷却されますが、剥離した部分は伝導経路が中断されています。 損傷したコンクリートの温度は日中により速く上昇し夜間はより速く下降するので、赤外線カメラで容易に検出できます。

健全なコンクリートと損傷したコンクリートの温度差の例
出典: 「コンクリート橋のデッキスキャニングに使用する赤外線カメラの比較:
Vol.2 Haymarket Bridgeにおけるフィールドテスト」2014年12月, NEXCO-West USA, Inc.

検査は、トラックに赤外線カメラを搭載し、車の流れに乗って毎時80kmで橋を渡りながら行います。 松本氏によれば、赤外線カメラが長さ1マイルの橋の1車線の全スキャンを記録するのに数分しかかかりません。

NEXCO-Westのスキャニングシステムで使われているのは、FLIR A6701sc MWIR 科学用途向けカメラです。 「高速で運転しながら高解像度の熱画像を撮影できるのでA6700シリーズのカメラを使用しています」と松本氏。 このカメラに装備された冷却型インジウムアンチモン検出器の積分時間は0.48μsという高速なので、チームは640 x 512ピクセルの赤外線画像をモーションブラーなしで記録できます。 松本氏によると、カメラのフレームレートは通常10Hzの設定なので高速道路では2メートルごとに鮮明な熱画像が記録できる、とのことです。 このカメラは、NEXCO-WestのIrBAS(赤外線橋評価システム)ソフトウェアを搭載した車両内のラップトップに接続されているので、チームはリアルタイム分析を参照して、剥離の可能性のある領域を確認することができます。


ラップトップには、NEXCO-WestのIrBASソフトウェアによりライブストリーミングで赤外線画像が表示されます。


橋デッキの欠陥マップ作成に使用した赤外線画像

データ処理

橋の各レーンのデータ収集が完了した後、チームはデータ処理に着手します。 「IrBASソフトウェアによってデータ分析と報告プロセスのほとんどが自動化されているので、欠陥マップを準備する時間とコストが大幅に削減されています」と松本氏は言います。 ソフトウェアは欠陥マップを使用して剥離の見られるデッキエリアのパーセンテージを計算し、その後米運輸交通担当者協会(AASHTO)の基準に従い状態を分類します。

損傷は3つのカテゴリに分類されます。

  1. 兆候あり:コンクリート表面の4cmの範囲に剥離がある。
  2. 注意:コンクリート表面の2cmの範囲に剥離がある。
  3. 危険:剥離がコンクリート表面に達している。

兆候ありに分類されたデッキは機能を損なう程ではないと考えられる一方、注意エリアは詳細なモニタリングが必要となります。 危険と判断されたエリアには、早急な対策が求められます。

より正しい判断で橋をより安全に


IrBASソフトウェアによる損傷の分類
出典:  「コンクリート橋のデッキスキャニングに使用する赤外線カメラの比較:
Vol.2 Haymarket Bridgeにおけるフィールドテスト」2014年12月, NEXCO-West USA, Inc.

チェーンドラッグ法に特有の主観的判断およびその潜在的な不正確さにより、この伝統的な橋デッキ検査法は再検討が必要になっています。 赤外線スキャニングはより客観的な結果をもたらすだけでなく、システムの移動性の高さにより、安全上の問題、交通の遅れ、排出ガスの増加など、車線閉鎖に伴う欠点の数々を回避できます。

NEXCO-Westの包括的かつ客観的なデータ収集法のもう一つの利点は、州の高速道路機関が橋の長期的性能を監視できることです。 「NEXCO-Westの赤外線マッピングは、橋管理におけるデータ駆動型の意思決定をサポートし、最終的には橋の所有者が高価で壊滅的な修復を回避するのを支援します」と松本氏は言います。 欠陥マップを以前の記録に重ねることで、技術者たちは橋の劣化の状況とその速度を判断できます。 それにより悪化の進行を予測してそれに応じた復旧作業を立案できるようになるのです。

赤外線による橋のスキャン(左)、およびデッキ欠陥マップ作成に使用したIrBAS処理の画像(右)

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