クライオクーラー冷却式赤外線システムの信頼性について理解する

PDF版をダウンロード

Teledyne FLIRは、ユーザーのミッション遂行能力の重要性と、メンテナンスフリーの赤外線(IR)システムの長期稼働の重要性を理解しています。中波長赤外(MWIR)冷却カメラモジュールは、厳しい環境や信頼性要件を満たすように設計、試験、製造を行う必要があります。これには、軍事に適した温度範囲、高い耐衝撃性、高い耐振動レベルが含まれます。Teledyne FLIRは、通常、クライオクーラーの動作と寿命が信頼性と動作寿命を左右するということを認識しており、市場をリードする動作寿命を備えた、最適化されたサイズと重量、電力(SWaP)を持つMWIRカメラモジュールを構築するために、耐久性の高い長寿命のリニアクライオクーラーを開発、試験、および製造しました。寿命試験とワイブル分析に基づいた、Teledyne FLIR FL-100クライオクーラーの推定平均故障時間(MTTF)は、プロトタイプ導入時では約17,000時間でしたが、現在の生産ユニットでは約27,000時間(目標寿命は30,000時間)でにまで延長しています。

本論文では、クライオクーラーの種類と歴史、その信頼性に関する一般的な誤解について説明し、さらに、クライオクーラーの寿命を改善するためにTeledyne FLIRがおこなっている取り組みについてご紹介します。

MWIR_Applications.jpg

 

赤外線カメラモジュールとシステムの概要

Teledyne FLIRは、さまざまなIR撮像システムを設計および製造しています。Neutrino® 製品ポートフォリオには、高性能MWIRカメラモジュール、MWIRカメラモジュール、連続ズーム(CZ)レンズアセンブリを統合したNeutrino ISシリーズモデルが含まれています。これらのクライオクーラー冷却式のMWIRカメラモジュール・システムには、さまざまなモデル構成があります。それぞれには類似したコンポーネントが組み込まれていますが、性能を最適化するために、サイズ、重量、電力的に若干の変更が加えられています。MWIRカメラモジュール・システムには、以下のコンポーネントと機能があります。

  • 焦点面アレイ(FPA):FPAは、リードアウト集積回路(ROIC)にハイブリッド化された検出器で構成されています。この検出器は、MWIR光子を電流へと変換します。ROICは電流を読み取り、検出器の光子数に比例するアナログ電圧またはデジタル信号を提供します。現在、InSbやほとんどのHgCdTe検出器は、極低温(例えば、-196℃(77K))で最適に動作します。このような低い温度にするにはかなりの冷却能力が必要となるため、冷却器のサイズが大型となり、重量や電力も増大します。高温MWIRバリア赤外線(T2SLなど)検出器は、およそ-153℃(120K)で駆動し、高い動作温度(HOT)とみなされており、必要とされる冷却容量は少なくて済みます。より高い温度になるということは、冷却器が小型化、軽量化、および省電力化し、画像化までの時間が短縮され、クーラーが長寿命化するということになります。
  • デュワー:デュワーは、FPA、コールドシールド(f/数を定義し、迷光を防ぐ)、コールドフィルター(検出器の光子の波長を決定する)を含む真空パッケージです。ROICとカメラの電気系との間の電気信号は、ハーメチックシールされたフィードスルーを介して提供されます。f/数値が速いほど性能は向上しますが、光学系のサイズも大きくなります。

Cooled MWIR Camera Modules.jpg

 

  • クライオクーラー:機械式クライオクーラーは、IR FPAに長時間の冷却を提供します。最近の設計では、Integrated Dewar Cooler Assembly(IDCA)の一部としてデュワーに直接統合されています。またこれらは、カメラの電気系とも統合されており、一般的には専用の冷却器制御電気系モジュールを介してカメラの電気系によって制御されています。
  • カメラの電気系:カメラの電気系は、以下の機能を実現するために、複数のプリント回路基板アセンブリ(PCBA)を含んでいることがあります。
    センサーインターフェイスの電気系には、FPAへの電源、クロック、タイミングロジックなどがあり、必要に応じてFPA出力のデジタル化も行われます。
    ユーザインターフェイスの電気系には、ノイズフィルタリング、画像エンハンスメント、動作ロジック、ユーザーインターフェイス用の包括的なコマンド、制御インターフェイス・ビデオ出力標準を含むカメラ機能のための信号処理が含まれています。
    クーラーコントローラーの電気系は、クーラーの動作を制御して冷却し、FPA/Dewarの温度を維持し、電力と画質を最適化します。
    光学系コントローラーの電気系は、光学機械式レンズアセンブリを制御し、ズーム全体の継続的な加熱フォーカスを維持し、ユーザーインターフェイスをサポートします。
  • 連続(CZ)光学系CZ光学系は、最終的なイメージングソリューションを提供するために統合されることがあります。CZ光学機械式レンズアセンブリには、光学アセンブリ、機械式パッケージング、フォーカス、ズームモーター、温度センサーが含まれています。

Aerial Image.jpg

 

クライオクーラーの今と昔

戦術アプリケーショ向けスターリング・クライオクーラーは、ほとんどの場合、ロータリータイプかリニアタイプのいずれかになります。ロータリークーラーは、移動ピストンとディスプレーサーに取り付けられたクランクシャフトを使用します。この配置によって、これらの構成要素の相対位相角を正確に制御できるようになりますが、クランクシャフト連結部からの横力が、寿命や信頼性に影響を及ぼす可能性があります。これとは対照的に、リニアクーラーは、最小限の横力でボイスコイルタイプのアクチュエーターによって駆動し、コンプレッサーに対してディスプレーサーの位相を制御するための空気圧駆動とチューニングに依存しています。

初期の冷却式センサーでは、ロータリークーラーが主流でした。ロータリークーラーは、精密で機械的な位相制御メカニズムを持ち、周波数(RPM)によって変化しないことから、従来のリニアクーラーよりも効率性が高く、冷却時間が短いという特徴があります。これらの冷却器は、従来では、機械的クランクシャフト連結から発生する横力のため、シール摩耗が増進し寿命に影響することが欠点となっていました。しかし、最新の設計では信頼性が大幅に向上し、一部のメーカーは、15,000時間~30,000時間の寿命であると主張しています。ロータリークーラーのもう1つの欠点は、不均衡なクランク機構から振動が発生することです。これは、敏感なシステムではジッターを引き起こす可能性があり、安定化が必要な場合はSWaPのフットプリントが増大し、信頼性の低下につながる可能性があります。また、多くのロータリークーラーでは、音響ノイズの生成も問題となります。

Fig 1- Integral Rotary Cryocooler.jpg Fig 1- Split Linear Cryocooler.jpg

図1. ロータリーおよびリニアクライオクーラーの概略図

リニアクライオクーラーは、寿命が格段に長く、伝わる振動が低いため、新しいシステムでは最も一般的に使用されるクーラータイプとなっています。このリニアクライオクーラーのメカニズムでは、ある冷却能力に対してわずかにサイズが大きくなり、クールダウン時間もわずかに長くなります。リニアクーラーは共振付近で動作するように調整されているため、単一の動作周波数だけに制限されています。入力電力は、コンプレッサーのピストンの振幅を通じて変調できますが、冷却中に周波数を増加させることはできないので、ロータリークーラーを使用するよりも冷却時間が長くなります。最近のリニアクーラーでは、寿命は20,000~30,000時間が期待できます。

パルス管冷却器は、コールドフィンガー内の可動式のスターリングディスプレーサーを、可動部品のないエキスパンダーに置き換えた特殊なリニアスターリング冷却器です。物理的なスターリングディスプレーサーがガスのカラムに置き代わっています。この「ガスピストン」は、固定式の再生器と位相シフトのメカニズムと対になっており、振動圧力に対する質量流量を制御します。この位相制御のメカニズムは、標準のリニアスターリングクーラーの空気圧調整よりも動作条件に対して敏感であるため、動作ポイントでは設計ポイントから離れた効率の低下につながります。冷却時間は特に大きく影響されるので、一般的に同容量の他の冷却器よりも冷却時間は大幅に長くなります。効率的なディスプレーサーとなるパルス管から再生器が分離することで、コールドフィンガーがより大きくなります。また、特に高G環境では、パルス管は方向感度が高まる傾向があります。これらの欠点により、パルス管冷却器は、寿命が長いという利点にもかかわらず、ほとんどの戦術的用途には使用されなくなりました。非接触曲げ軸受コンプレッサーと組み合わせたパルス管冷却器は、10万時間以上の寿命を達成できます。

School Bus Image.jpg

 

クライオクーラーの信頼性の基本と誤解

Fig 2 - Basics and Misconceptions.jpg

図2. MTBF、MTTF、故障率、累積故障分布の関係

冷却カメラモジュールやクライオクーラーは、その故障頻度の平均時間(MTBF)または故障までの平均時間(MTTF)のいずれの観点からも、その信頼性が報告されています。これらの用語は似通ったように聞こえますが、重要な違いがあります。MTBFは通常、修理可能なシステムに適用され、MTTFは修理不可能なシステムに適用されます。さらに、この2つのメトリックは定義が異なり、また互いに直接比較できないことが重要です。またこの点は曖昧ですが、MTTFは故障前の平均時間(mean time before failure)と呼ばれ、MTBFと略されることもあります。これらのメトリックは図2に、典型的な故障率と累積故障分布曲線が示されています。

MTBF(中間)メトリックは、構成要素の一定の故障率を前提としているため、機械的摩耗の影響を受けないコンポーネント(電気系など)にとっては適切な想定です。これは、コンポーネントのランダムな故障率の逆数と同じで、多くの場合、(稼働時間数)/(故障数)として定義されます。MTBFは、従来はクライオクーラーや冷却式IRカメラによく使われていましたが、特にクライオクーラーは消耗が激しく、頻繁に交換する必要がありました。最新のクライオクーラーでは、消耗前の故障率は一般的に非常に低く、したがってMTBFは非常に高くなります。クライオクーラーの機械的な磨耗を考慮せず、磨耗前のランダムな故障率にのみ焦点が当てられるため、計算されたクライオクーラーのMTBFは、多くの場合、MTTFや期待寿命を大幅に上回ります。

MTBF.jpg

現在、クライオクーラーの寿命の推定値は、より頻繁にMTTFの観点で提示され、多くはワイブル統計を用いて計算されます。最もよく使用されるワイブル分布には、システム内の摩耗量を示す形状パラメーターと、母集団の63%が故障する点を表す生涯パラメーターの2つのパラメーターがあります。故障率と時間の関係を表す2つのパラメーターのワイブル分布を以下に示します。

F.jpg

母集団の50%のユニットが故障した時間として定義されるMTTFは、統計解析ソフトウェアを使用してユニットのサンプルから計算することができます。現在、大半のクライオクーラーのメーカーがこの手法を採用していますが、多くのメーカーが真のMTTF(50%故障)ではなく、これらの分布の寿命パラメーター(故障率63%)で報告しています。この方法は、機械式冷却器の摩耗を考慮したものであるため、真に有用な寿命をより正確に推定することができます。Teledyne FLIRは、寿命試験データをワイブル分布に適合させ、母集団のMTTF(故障率50%)点を計算することにより、当社製品のクライオクーラー寿命を推定しています。

クライオクーラー冷却式MTTFに関する情報を手に入れることは、IRクライオクーラー式システムの信頼性を確立する上で役に立ちますが、Teledyne FLIRのIRカメラモジュールとシステムには注意すべき重要な点があります。クライオクーラーは、システム内にある工場で交換可能なコンポーネントとして設計されています。摩耗したクライオクーラーは、工場で簡単に交換できるため、IRシステムは必要に応じて、何度かサービスを受けて使用可能であると見なされています。従って、赤外線システムの動作寿命は延長されます。

Airplane.jpg

 

Teledyne FLIRにおけるクライオクーラーの信頼性の向上

IRシステムのミッションでは、運用上のレディネスとメンテナンス不要の長期運用が重要になります。Teledyne FLIRは、SWaP最適化Neutrino®冷却式MWIRカメラモジュールの一部として、高い耐久性をもった、長寿命のリニアクライオクーラーを開発しました。図3に示すFL-100リニアクライオクーラーは、性能がクラス最高レベルであるだけでなく、寿命試験とワイブル分布に基づく27,000時間(MTTF)を超える推定動作寿命も備えています。

FL-100の設計は、2018年に導入されて以来、継続的に改良を
重ねてきました。摩擦の低減とトレランスに関する複数の改善が行われ、その結果、寿命と冷却能力が向上しました。主に摩擦密封の品質と可動部品のアライメントに焦点を当てたプロセスのイノベーションも、寿命の改善に大きく貢献しました。これらの改善がFL-100の信頼性に与える影響は、Teledyne FLIRのクライオクーラー信頼性試験プログラムを通じて定量化されています。また、その他の改良にもMTTF、30,000時間超を目標とした検証がおこなわれています。

Fig3.jpg

図3:Teledyne FLIR FL-100 クライオクーラー

Teledyne FLIRは、信頼性の検証と向上という2つの目的で、継続的なクライオクーラーの信頼性試験を実施しています。試験は、「米国陸軍標準の高度なDewarアセンブリ(SADA)」寿命試験プロファイルに従った業界標準の試験、および複数の加速応力を組み込んだ加速寿命試験(ALT)の両方から構成されています。  収集したデータにより、加速した試験結果をSADAと同等の寿命に変換することができます。FL-100試験施設には26台のクーラーがあり、そのうち8台はSADAプロファイル専用で、18台はALTをおこなっています。試験ステーションが利用可能になると、新しいユニットが追加され、現在の生産性能の検証、プロセス、設計改善の評価ができるようになります。この寿命試験プログラムとワイブル分析に基づき、FL-100クライオクーラーの推定MTTFは、プロトタイプ導入時の約17,000時間から現在の生産ユニットにおける約27,000時間にまで拡張しました。

Fig4.jpg

図4:信頼性試験およびワイブル分析に基づくTeledyne FLIR FL-100 MTTFの進化

 

Teledyne FLIR FL-100の概要

多様な環境におけるクライオクーラーの信頼性は、多くの場合、特定のアプリケーションの入力電力要件に左右されます。このように、標準環境(SADAプロファイルなど)での推定寿命は、ワット時間単位で基準化することで、顧客のユースケースに変換できます。そのため、より効率的なクライオクーラーは、特に圧力の多くかかる用途では、一般的に寿命が長くなります。

カテゴリーをリードする信頼性に加えて、FL-100は、効率的な冷却能力を入力電力に供給するように設計されています。図5は、FL-100の冷却性能曲線と、複数のサプライヤーから現在入手可能な5つのリニアクーラーを、データシートや公表論文を含む公開ソースのデータと比較しています。FL-100は、同様のリニアクーラーと比較して、冷却能力に対する入力電力が少なくとも20%向上し、最大で2倍向上します。

Fig5.jpg

図5:一般的なマイクロクーラーと比較したFL-100クーラーの入力電力と冷却能力

リニアクライオクーラーは、寿命が各段に長くなり、振動のエクスポートが減少するため、新しいシステムに最も一般的に使用されるクーラータイプとなっています。最近のリニアクーラーでは、寿命は20,000~30,000時間が期待できます。Teledyne FLIR FL-100リニアクライオクーラーのMTTFは約27,000時間であり、現在進行中の製品改良により、MTTFは30,000時間を超えることが目標となっています。これは、最近リリースされたSWaP最適化640 x 512解像度のNeutrino LCおよび1280 x 1024解像度のNeutrino SX8冷却MWIR カメラ・モジュールと、さまざまなCZ レンズ・アセンブリを備えたNeutrino ISシリーズのVGAおよびSXGA MWIRカメラ・モジュールに統合されています。信頼性が高く交換可能な構成要素として、FL-100はNeutrino ポートフォリオの寿命を延長します。

詳しくはwww.flir.com/neutrinoをご覧ください。

関連記事